高知県三原村人口減少のなかで行政サービスはどう守られているのか
はじめに――四万十町から眺める隣の山あいの村
私が暮らしている四万十町から山道を上っていくと、やがて三原村の看板が見えてきます。
斜面に小さな集落が点々と並び、田んぼと山に囲まれた一角に役場や学校、郵便局がまとまっている――そんな、ぎゅっとコンパクトな暮らしの場です。
のどかな景色とは裏腹に、ここでも人口減少と高齢化は確実に進んでいます。
役場の窓口、福祉、道路や上下水道、村の中を走る車やバス…。
こうした「当たり前のサービス」を、人口1,000人台の村でどこまで維持できるのか。
この記事では、
- 高知県三原村の今の姿
- 人口規模が近い岡山県西粟倉村・群馬県南牧村との比較
- 幡多地域での広域連携という視点
を組み合わせながら、「小さな村の行政サービス維持」について考えてみたいと思います。
断定的な結論というより、「こんな方向性が見えてきそうだ」というレベルの整理・推測として読んでもらえればと思います。
1三原村の人口減少と行政サービスの前提条件
三原村は、高知県西部の幡多地域にある山間の村です。周りには四万十市や宿毛市、土佐清水市、大月町、黒潮町、そして四万十町などがあり、その中で最も小さな自治体のひとつです。
人口や年齢構成の変化は、行政サービスにダイレクトに響きます。たとえば、
- 税収が伸びにくくなり、公共施設や道路・上下水道の維持が重荷になる
- 役場職員や介護職員、看護師など、人材の確保が難しくなる
- 学校、診療所、商店などが「利用者不足」に陥りやすくなる
といったことが起きやすくなります。
三原村でも、高齢化率は高い水準にあり、高齢者だけの世帯や一人暮らしが増えているとされます。▶三原村の人口統計
つまり、「支えが必要な人」は増えている一方で、「支える側」は減りつつある状況です。
それでも行政サービスをあきらめるわけにはいきません。村の計画や実際の取り組みを見ると、サービスの形を作り替えながら、なんとか暮らしを守ろうとしている様子がうかがえます。
2高齢化と担い手不足どこまで行政が引き受けるのか
人口減少と高齢化が進むと、行政サービスの中身も変化を迫られます。特に大きいのは次の三つです。
高齢者向けサービスへの比重の移動
村全体の年齢構成が高齢者寄りになると、
- 介護や見守り
- 通院や買い物の支援
- 健康づくりや介護予防の取り組み
といったメニューの重要度が自然と増していきます。
その一方で、子どもの数が減ることで、学校や子育て支援のあり方も見直しが必要になります。
住民側の「支える人」の減少
中山間地域の暮らしは、本来、行政だけでは回っていません。消防団、自治会、地域の商店や事業者、ボランティアグループ――こうした存在が、半分公共サービスのような役割を担ってきました。
ところが、若い世代が少なくなると、
- 自治会役員を続けられる人が限られてくる
- 行事や見守りを支えるボランティアが集まりにくい
- そもそも地元に事業者が少なくなっていく
という現象が起きます。
「やるべきこと」は残っているのに、「実際に動ける人」が年々減っている――これが担い手不足の現実です。
一人暮らし・高齢者世帯の増加
昔のように大家族が多かった時代と違い、今は、
- 子どもが市外・県外で暮らしている
- 夫婦だけ、あるいは一人だけで暮らしている
というケースが増えています。
ゴミ出し、家の周りの草刈り、病院への送迎、買い物の付き添い……。
こうした細かい部分を、すべて行政がサービスとして用意するのは現実的ではありません。
「どこまでが行政の仕事で、どこからは地域や家族に任せるのか」という線引きが、以前よりも難しい課題になっています。
3三原村集落活動センターやまびこが担う役割
こうした中で、三原村の特徴になっているのが、住民主体の集落活動センター「やまびこ」です。
村の中心部にある建物に入ると、カフェスペースやキッチン、イベントができる広い部屋などがあり、地域の人がふらっと立ち寄れる雰囲気があります。ここを拠点に、住民や移住者が一緒になってさまざまな活動を行っています。
具体的には、
- 地元の野菜やお米を使ったランチやお弁当の提供
- 体操教室やイベントなど、健康づくりと交流の場づくり
- 日常の困りごと相談や、ちょっとした見守りの受け皿
- 農産物の加工や新商品づくりへのチャレンジ支援
といった取り組みが挙げられます。
見方によっては「地域おこし」「にぎわいづくり」の施設ですが、行政サービスの観点から見ると役割が少し違って見えます。
- 高齢者が自然に足を運ぶことで、安否確認や悩みごとの早いキャッチにつながる
- 村内に小さな仕事を生み出し、収入と生きがいを同時に作り出す
- 集落と役場の間に入ることで、「行政に相談する前の段階」の受け皿になる
つまり、
役場と集落のあいだをつなぐ「中間的な公共スペース」
として機能していると言えそうです。
三原村の行政サービスは、今後、
- 役場が直接担う基礎的なサービス
- やまびこのような地域組織が支える暮らしのサービス
- 周辺市町に頼る高度なサービス
という三つのレイヤーで考えていくことになるのではないか――そんなイメージが浮かんできます。
4三原村と西粟倉村南牧村の比較から見える選択肢
ここで、人口規模が似ている二つの村、岡山県西粟倉村と群馬県南牧村を取り上げてみます。三村とも1,000人台の人口ですが、歩んでいる道はそれぞれ違います。
岡山県西粟倉村移住と起業で未来を描く村
西粟倉村は、林業を核にした「百年の森林」構想や、ローカルベンチャー支援で知られています。▶西粟倉村の人口考察
村外からの移住者や起業家を積極的に受け入れ、小さな会社や仕事を村の中につくる流れをつくってきました。
その結果、
- 高齢化は進みつつも、若い世代も一定数暮らしている
- 子育て世帯や起業希望者が、行政サービスの重要な対象になっている
という状況になり、行政サービスも、
- 子育て・教育環境の整備
- 起業支援やテレワーク環境の整備
- 森林資源を活かした産業政策
など、将来への投資色の強いメニューを打ち出しやすくなっています。
群馬県南牧村超高齢社会の最前線に立つ村
一方、南牧村は、全国有数の高齢化率を持つ自治体としてよく名前が挙がります。
人口は三原村と同程度ですが、65歳以上の割合はさらに高く、「超」がつく高齢社会です。▶南牧村の人口事情
この条件の下では、
- 特別養護老人ホームやデイサービスなどの福祉施設
- 通院や買い物の送り迎えといった移動支援
- 見守り体制や相談窓口の拡充
など、高齢者向けサービスがどうしても中心になります。
財政面・人材面の負担は重くなりますが、「とにかく暮らしを支える」方向に舵を切らざるを得ない、という印象を受けます。
三原村が立っている位置と取り得る方向
三原村は、西粟倉村ほど若い世代の流入があるわけではなく、南牧村ほど高齢化率が突出しているわけでもありません。
人口規模は同じくらいでも、「どの世代がどれくらいいるか」が違うため、行政サービスの組み立て方も変わってきます。
その意味で三原村は、
- 南牧村のように、高齢者福祉を最優先に厚くする方向
- 西粟倉村のように、移住や仕事づくりに力を入れて年齢構成を整える方向
- やまびこを軸に、地域組織と行政が役割分担していく方向
といった複数の道を、まだある程度選び取りうる位置にいるように見えます。
どこに重心を置くかによって、将来の行政サービスの姿はだいぶ違ってくるのではないでしょうか。
5幡多地域広域連携と三原村の役割分担
もう一つ外側の視点として、「幡多地域全体での役割分担」があります。
三原村の住民も、仕事や高校、病院、大きな買い物など、多くの用事を四万十市や宿毛市に頼っています。これは現状でもそうですし、この先も大きくは変わらない可能性が高いでしょう。
この前提に立つと、三原村が自前で守るべき行政サービスは、次のような部分に絞られてくるかもしれません。
- 住民票や税、福祉相談など、暮らしの基礎に関わる窓口業務
- 集落とやまびこを通じた見守りや生活支援
- 村内移動やコミュニティ維持のための小さな交通サービス
逆に、
- 総合病院や専門医療
- 高校や一部の教育機会
- 大型スーパーや専門店
といった機能は、「幡多地域の都市部が担い、三原村を含む周辺が利用する」という構図が、今後さらに強まっていく可能性があります。
その際にカギになるのは、
- 高齢者でも使いやすい移動手段(コミュニティバスや乗り合いタクシーなど)
- オンライン診療やリモート相談など、デジタル技術の活用
といった仕組みでしょう。
広域連携を「絵に描いた餅」にしないためには、こうした具体的な足回りがどこまで整うかが重要になりそうです。
おわりに――行政だけに頼らない仕組みづくりの先に見えるもの
三原村、西粟倉村、南牧村。
人口規模は似ていても、行政サービスのあり方や、そこに至る背景はそれぞれ違います。
三原村の場合、
- やまびこのような地域組織と連携しながら、行政サービスを「役場だけのもの」にしない
- 幡多地域全体の中で、自分たちの役割と外部に頼る部分を整理し直す
- 将来の担い手を少しずつでも増やすために、移住や仕事づくりの余地を探る
といった方向性が、今後の選択肢になっていくのではないかと感じます。
どこまでを村の中で守り、どこからを広域や民間に託すのか。
その線引きは、数字だけでは決められず、住民の希望や地域の価値観も深く関わってきます。
はっきりした正解はまだ見えていませんが、三原村の試行錯誤の過程そのものが、同じように悩む全国の小さな自治体にとって、一つの参考例になる可能性があります。
四万十町という隣町からその姿を見ながら、「これからどんな行政サービスのかたちが生まれてくるのか」を、引き続き追いかけていきたいと思います。
